なぜ？ベテラン vs 中堅 vs 新人｜看護師の世代間ギャップと歩み寄りのヒント

「最近の若い子は…」

「私たちの頃は…」

「先輩たちの言うことも、後輩の気持ちも分かるけど…」

看護師として働く中で、こんな言葉を聞いたり、思ったりしたことはありませんか？

医療現場は、ベテラン、中堅、新人と、様々な経験年数や価値観を持つ看護師が協力し合って成り立っています。しかし、その中で「世代間のギャップ」を感じ、悩んでいる方も少なくないのではないでしょうか。

特に、板挟みになりやすい中堅世代の苦労も耳にします。

このギャップは、時にコミュニケーションの壁となり、チームワークを阻害し、最悪の場合、「人間関係が理由で転職したい…」という気持ちにつながることもあります。

この記事では、まずこの記事で扱う「新人」「中堅」「ベテラン」看護師がどのような層を指すのか目安を示した上で、看護師の職場でなぜ世代間ギャップが生まれやすいのか、その背景にあるそれぞれの考え方の違いを探り、ギャップを乗り越え、より良い関係性を築くための具体的なヒントを世代別に解説します。

現在、職場の人間関係に悩んでいる方、これから転職を考えているけれど新しい環境での世代間ギャップが不安な方、そして、より良いチームを作りたいと考えている全ての看護師さんにとって、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

1.この記事における「新人」「中堅」「ベテラン」の目安について

本題に入る前に、この記事で用いる「新人」「中堅」「ベテラン」という区分について、認識を共有させてください。

これらの区分は、厳密な年齢や経験年数で定義されるものではありません。 看護師個人のスキル習熟度、任されている役割や役職、また勤務する病院や施設の方針によっても、その捉え方は大きく異なります。

ただ、読者の皆さんがイメージしやすいように、一般的な目安として、以下のような経験年数や年齢層を想定して解説を進めていきます。

• 新人看護師:
  • 経験年数: おおむね1年目～3年目くらいまで。
  • 年齢層（目安）: 20代前半～半ばが中心。
  • 特徴: 看護師として働き始め、基本的な看護技術や知識を習得し、日々の業務に慣れながら自立を目指している段階。積極的に学び、多くのことを吸収しようとしています。
• 中堅看護師:
  • 経験年数: おおむね4年目～10年目（職場によっては15年目頃まで）くらい。
  • 年齢層（目安）: 20代後半～30代（職場によっては40代前半）が中心。
  • 特徴: 一通りの看護業務を独り立ちして遂行でき、応用力も身についてくる段階。
  • 　　後輩指導やチームリーダー、委員会活動など、プレイヤー＋αの役割を任され始めることが多いです。
  • 　　自身のキャリアパス（専門・認定看護師、管理職など）について具体的に考え始める時期でもあります。
• ベテラン看護師:
  • 経験年数: おおむね10年（あるいは15年）以上。
  • 年齢層（目安）: 40代以降（職場によっては30代後半以降）が中心。
  • 特徴: 豊富な臨床経験と知識、高い看護実践能力を持つ段階。
  • 　　新人や中堅への指導・育成、部署運営の中核、管理職など、指導的・管理的な役割を担うことが多いです。
  • 　　特定の看護分野における専門性を深めている方も多くいます。

【重要】 この定義は、あくまでこの記事内での議論を分かりやすくするための便宜的なものです。

ご自身の経験年数や年齢だけで判断せず、担っている役割やスキルなども含めて、柔軟に捉えていただければと思います。

さて、こうした異なる経験や背景を持つ看護師たちが働く職場で、なぜ「世代間ギャップ」が生まれやすいのでしょうか？その背景を探っていきましょう。

2.なぜ看護師の職場で世代間ギャップが生まれやすいのか？

看護師の職場は、他の職種と比較しても、先ほど定義したような新人・中堅・ベテランといった世代間のギャップが顕在化しやすい環境と言えるかもしれません。

その背景には、主に以下の３つの要因が考えられます。

変化の激しい医療現場

医療技術は日々進歩し、治療法や看護ケアのスタンダードも常に変化しています。

ベテラン看護師が新人時代に学んだ知識や技術が、現在では通用しない、あるいはやり方が大きく変わっているというケースも少なくありません。

例えば、電子カルテの導入・更新、新しい医療機器の操作、感染対策基準の変更、個別化医療の進展など、常に新しいことを学び、適応し続ける必要があります。

この変化への対応スピードや学習方法、考え方の違いが、世代間のギャップを生む一因となります。

教育背景の違い

看護師になるための教育カリキュラムも、時代とともに大きく変化しています。

ベテラン世代、中堅世代、新人世代が受けてきた教育では、重点を置く内容や学習方法が異なります。

• ベテラン世代: 実践を重視し、経験豊富な先輩から直接指導を受けるOJT（On-the-Job Training）が中心だった時代。技術を体で覚える、見て学ぶという側面が強かったかもしれません。

• 中堅世代: EBN（Evidence-Based Nursing：根拠に基づく看護）の考え方が導入され始めた時期に教育を受け、実践経験と科学的根拠を結びつけることを意識し始めた世代と言えるでしょう。

• 新人世代: EBNが看護教育の基盤となり、シミュレーション教育による実践的な学習や、多職種連携（チーム医療）を強く意識したカリキュラムで学んできています。

これにより、看護実践における優先順位の考え方（例：経験則 vs 科学的根拠）、後輩への指導方法などに違いが現れ、ギャップを感じる場面が出てきます。

価値観の多様化

社会全体の価値観が多様化していることも、世代間ギャップに大きく影響を与えています。

特に、仕事に対する考え方、キャリア観、働き方、プライベート（私生活）とのバランスに対する価値観は、世代によって異なる傾向が顕著です。

• ベテラン世代: 「仕事＝自己実現」と考え、組織への貢献や患者さんへの献身を第一に考える価値観を持つ人が多い傾向。長時間労働も比較的受け入れやすい時代背景がありました。

• 中堅世代: 仕事への責任感を持ちつつも、育児や介護などライフイベントとの両立を図りたいと考える人が増え、キャリアアップとワークライフバランスの間で模索する世代。

• 新人世代: ワークライフバランスを重視し、プライベートの時間を確保することを当然の権利と考える傾向。効率的な働き方や、ハラスメントに対する意識も高い世代です。

これらの価値観の違いが、勤務態度、時間管理、チームへの関わり方、コミュニケーションの取り方などに対する認識のズレを生じさせ、ギャップとして感じられることがあります。

3.【世代別】考え方の違い：ベテラン・中堅・新人

世代間ギャップを生む背景を踏まえ、具体的にベテラン、中堅、新人の間でどのような考え方の違いが見られるのか、さらに掘り下げてみましょう。

繰り返しますが、個人差があることを念頭に置いてください。

仕事への姿勢・責任感

• ベテラン看護師:
  • 長年の経験に基づく洞察力や状況判断能力が高い。患者さんの僅かな変化や潜在的なリスクを察知する力。
  • 「自分が責任を持って完遂する」というプロフェッショナル意識が非常に高い。
  • 　時に、それが「自分だけで抱え込む」傾向につながることも。
  • 組織全体や部署の目標達成に対する意識が強い。

• 中堅看護師:
  • 個人の業務遂行能力が高まり、自信を持って仕事に取り組めるようになる一方、チーム全体の動きにも目を配る必要が出てくる。
  • 後輩指導やリーダー業務を任され、自分の仕事＋αの責任を感じ始める。
  • ベテランの期待と新人の育成の間で、調整役としての責任感を強く持つ。

• 新人看護師:
  • まずは基本的な業務を安全・確実に遂行することに集中。手順の遵守や確認行為を重視する。
  • 報告・連絡・相談（ホウレンソウ）の重要性は理解しているが、タイミングや内容、相手への遠慮から、うまくできないと感じることも。
  • 「早く一人前になりたい」という意欲と、失敗への不安が混在している。

知識・技術の習得方法

• ベテラン看護師:
  • 実践経験を通して、多くの知識や技術、暗黙知（言葉にしにくいコツや勘）を蓄積。
  • 新しい知識の習得も必要だが、自身の経験に基づいた判断を優先することもある。
  • 後輩指導では「まずやってみせる」「背中を見て学べ」というスタイルを取ることがある。

• 中堅看護師:
  • 体系的な知識（EBN）と実践経験を結びつけ、自身の看護観を構築していく時期。
  • 後輩に教えることを通じて、自身の知識や技術を再確認し、深化させる。
  • 研修参加や自己学習にも意欲的だが、多忙な業務との両立が課題になることも。

• 新人看護師:
  • 根拠に基づいた知識・技術を重視し、マニュアルや研修で体系的に学ぶことを好む。
  • 「なぜそうするのか」という理由や背景を知りたいという欲求が強い。
  • 分からないこと、疑問に思ったことは積極的に質問したいが、質問しにくい雰囲気を感じると萎縮してしまうことも。

コミュニケーションスタイル

• ベテラン看護師:
  • 結論から話す、指示が簡潔など、効率性を重視したコミュニケーションを取る傾向。
  • 長年の付き合いがある同僚とは、阿吽の呼吸で連携できることも。
  • 時に、直接的な物言いが、若手には「きつい」と受け取られる可能性も。

• 中堅看護師:
  • ベテランと新人、双方のコミュニケーションスタイルを理解し、橋渡し役を担うことが多い。
  • 後輩には共感的・丁寧な対応を心がけ、ベテランとは要点を押さえた効率的なやり取りを試みるなど、相手に合わせた調整を行う。
  • 調整役としての気苦労を感じやすい。

• 新人看護師:
  • 相手の気持ちへの配慮を重視し、丁寧な言葉遣いやクッション言葉を用いる傾向。
  • プロセスや共感を大切にするコミュニケーションを好み、結論だけでなく背景や理由も知りたい。
  • メールやチャットなど、テキストベースのコミュニケーションに慣れている。

ワークライフバランスの考え方

• ベテラン看護師:
  • 仕事中心の生活を送ってきた経験を持つ人が多く、自己犠牲的な働き方を肯定的に捉える人も。
  • 急な残業や休日出勤にも、「患者さんのため」「チームのため」と比較的抵抗なく対応する傾向。
• 中堅看護師:
  • 仕事のやりがいとプライベート（家庭、育児、介護、自己啓発など）の充実を両立させたいと考える。
  • 限られた時間で成果を出すための効率性を意識する。
  • 有給休暇の取得や残業時間の管理に関心が高い。
• 新人看護師:
  • 仕事とプライベートは明確に分けたいという意識が強い。「プライベートの充実が仕事の活力になる」と考える。
  • 定時退勤や有給休暇の取得は当然の権利であり、心身の健康維持のために重要だと考えている。
  • ハラスメントに対する意識が高く、不適切な働きかけには敏感。

4.世代間ギャップが引き起こす問題点

これらの世代間の考え方の違いが理解されず、相互理解の努力がなされない場合、職場に様々なネガティブな影響を及ぼす可能性があります。

最悪の場合、貴重な人材の流出、つまり転職につながってしまいます。

コミュニケーション不全と人間関係の悪化

世代間の「当たり前」が違うため、意図が正確に伝わらなかったり、誤解が生じたりしやすくなります。

「報告したのに伝わっていない」「指示が曖昧で動けない」「質問したいけど聞きにくい」「どう伝えたら角が立たないか悩む」…。

こうした小さなすれ違いが積み重ねると、お互いへの不信感が高まり、人間関係が悪化する原因となります。

チームワークの阻害と業務効率の低下

看護業務は、多世代が連携するチームプレーが不可欠です。

しかし、コミュニケーションが滞り、人間関係が悪化すると、情報共有がスムーズに行われなくなったり、協力体制が築けなかったりします。

特に、調整役であるべき中堅看護師が機能不全に陥ると、チーム全体のパフォーマンスが低下し、業務効率が悪化する可能性があります。

ストレス増加と離職リスクの増大

世代間の価値観の違いから生じる軋轢や、一方的な価値観の押し付けは、働く看護師にとって大きな精神的ストレスとなります。

特に、新人や若手は、指導方法やコミュニケーションのギャップに悩み、早期離職を選択してしまうケースが少なくありません。

また、中堅看護師も、上司（ベテラン）と部下（新人）の板挟みによるストレス、増大する責任と業務量に疲弊し、燃え尽き（バーンアウト）や転職を考えることがあります。

ベテラン看護師も、指導の難しさや、新しい価値観についていけないと感じるストレスを抱えることがあります。

患者ケアの質への影響（潜在的リスク）

職場のコミュニケーション不足やチームワークの乱れは、決してスタッフ間だけの問題ではありません。

情報の伝達ミスや連携不足は、ヒヤリ・ハットや医療事故（インシデント・アクシデント）のリスクを高める可能性があります。

最終的には、患者さんの安全確保や、提供される看護ケアの質にも影響を与えかねない、重大な問題なのです。

世代間の考え方の違いが、特定の先輩や同僚とのコミュニケーションを特に難しくさせ、「あの人がどうしても苦手…」「上司とうまくいかない…」といった、より個人的な人間関係の悩みに直結することも少なくありません。

もしあなたが今、世代全体のギャップというよりも、特定の相手との関係性に深く悩んでいて、日々のストレスを感じているなら、具体的な対処法や自分の心を守る方法を知ることが、状況を改善する第一歩になるかもしれません。

『【人間関係】看護師が職場で「苦手な同僚・上司」と上手に付き合うコツ｜ストレスを減らして働き続けるには？』では、苦手なタイプ別の具体的な接し方から、ストレスを溜めないためのセルフケア、そしてどうしても辛い場合の転職という選択肢まで、詳しく解説しています。

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世代間のギャップへの理解と合わせて、こちらの記事も参考に、より具体的な人間関係の悩みを乗り越えるヒントを探してみてくださいね。

5.【世代別】ギャップを埋めるための歩み寄りのヒント

世代間ギャップは、対立やストレスの原因になる一方で、お互いを理解し、尊重し合う努力をすれば、多様な視点や経験を活かした、より強いチームを作るためのチャンスにもなり得ます。

ここでは、それぞれの立場からできる「歩み寄り」の具体的なヒントを考えてみましょう。

ベテラン看護師ができること

• 「自分の常識」は絶対ではないと心得る: 自分が新人だった頃とは、医療も社会も大きく変化しています。
• 　「最近の若い者は…」と一方的に決めつけず、新人や中堅の意見や価値観に耳を傾け、理解しようと努める姿勢が何より大切です。
• 　まずは、相手の話を遮らずに最後まで聞くことから始めてみましょう。

• 指導方法をアップデートする意識を持つ: 「見て覚えろ」「経験すればわかる」だけでなく、なぜそうするのか根拠（エビデンス）を示しながら、具体的に、論理的に指導することを意識しましょう。
• 　理由を説明することで、相手の納得感と学習意欲が高まります。
• 　中堅看護師に、効果的な伝え方について相談するのも良い方法です。

• 経験を「共有財産」として伝える工夫: 長年の経験で培った貴重な暗黙知（勘やコツ）を、できるだけ具体的な言葉や事例に落とし込んで伝えましょう。
• 　「あの時こうだったから」だけでなく、「こういう状況では、こういう点に注意すると良い」といった形で伝えると、若手にも活かしやすくなります。

• 「承認」と「感謝」を言葉で示す: できていない点だけでなく、できている点、成長した点、チームへの貢献などを具体的に見つけて言葉で伝えましょう（承認）。
• 　そして、助けてもらった時や協力してくれた時には、世代に関わらず「ありがとう」と感謝の気持ちをしっかり伝えることが、良好な関係の基本です。

• 質問しやすい雰囲気を作る努力: 忙しい中でも、「何か困っていることはない？」「分からないことがあったらいつでも聞いて」といったオープンな姿勢を示すことが大切です。
• 　実際に質問された際には、丁寧に対応することで、若手は安心して頼ることができます。

中堅看護師ができること

• 「緩衝材」「橋渡し役」としての役割を自覚する:「ここを強調」ベテランと新人の双方の意見や気持ちを客観的に受け止め、それぞれの立場や考えを尊重しながら、コミュニケーションが円滑に進むよう仲立ちをする意識を持ちましょう。
• 　板挟みは大変ですが、チームの要となる重要な役割です。

• 自身の経験を「等身大のロールモデル」として共有する: 新人にとっては、年齢や経験が近い中堅看護師の経験談（成功体験だけでなく、失敗談や悩みも含めて）が、具体的で共感しやすく、身近な目標として参考になります。

• 「翻訳者」としてのスキルを発揮する: 新人がベテランに直接言いにくい要望や疑問、逆にベテランが新人に伝えたいが誤解されそうなニュアンスなどを、それぞれの世代に分かりやすい言葉や表現に置き換えて伝える工夫をします。

• チームの雰囲気作りを意識する: 明るい挨拶、積極的な声かけ、困っている人へのサポートなどを通じて、風通しが良く、コミュニケーションを取りやすい雰囲気（心理的安全性）を作るよう心がけます。

• 一人で抱え込まず、周囲に助けを求める: 調整役としてのプレッシャーやストレスは大きくなりがちです。
• 　同僚の中堅看護師と悩みを共有したり、信頼できるベテランや上司（師長など）に相談したりして、一人で抱え込まないようにしましょう。

新人・若手看護師ができること

• 謙虚な姿勢と学ぶ意欲を忘れずに: 先輩（ベテラン・中堅）は、自分よりも多くの経験と知識を持っています。
• 　敬意を払い、教えを請う謙虚な姿勢と、積極的に知識や技術を吸収しようとする意欲を示すことが、信頼を得る第一歩です。

• 報告・連絡・相談（ホウレンソウ）は基本動作と心得る: 不安なこと、分からないこと、判断に迷うことは、決して自己判断せず、必ず先輩に報告・連絡・相談しましょう。
• 　タイミングを見計らう必要はありますが、「後で聞こう」ではなく、早めに声をかける習慣をつけましょう。
• 　誰に相談すべきか迷ったら、まずは身近な中堅看護師やプリセプターに相談するのが良いでしょう。

• 感謝の気持ちを具体的に伝える: 指導してもらったり、フォローしてもらったり、気にかけてもらったりした際には、その都度「ありがとうございます」「助かりました」と言葉でしっかり感謝の気持ちを伝えることを習慣にしましょう。

• 相手を理解しようと努める: なぜ先輩はそういう言い方をするのか、どういう意図があるのか、すぐに反発するのではなく、背景を想像してみることも大切です。
• 　疑問があれば、「〇〇ということでしょうか？」と確認する形で質問してみましょう。

• 自分の考えを伝える努力もする: 教えてもらうだけでなく、自分の意見や考えを、根拠と共に伝える練習も必要です。
• 　ただし、伝える相手やタイミング、言葉遣いには配慮しましょう。

6.世代を超えて協力し合える職場環境を作るには？

世代間の歩み寄りは、個々の看護師の努力に加えて、組織全体として、世代を超えて誰もが働きやすく、協力し合える職場環境を整備していくことが不可欠です。

これは、看護師の仕事への満足度（働きがい）を高め、人材の定着（離職防止）を図る上で非常に重要です。

これから転職を考えている看護師さんにとっても、転職先を選ぶ際の重要なチェックポイントになります。

相互理解と尊重の文化を醸成する

最も根本的で重要なのは、年齢や経験年数に関わらず、お互いの違いを個性として認め、尊重し合う文化を職場全体で育むことです。

「世代が違うから分かり合えない」と壁を作るのではなく、「世代が違うからこそ多様な視点があり、学び合える」というポジティブなマインドセットを共有できるような雰囲気作りを目指しましょう。

• 定期的な研修の実施: 世代間コミュニケーション、チームビルディング、アンコンシャスバイアス（無意識の偏見）などに関する研修を取り入れ、相互理解を深める機会を作る。

• 交流の機会を設ける: 部署内でのランチミーティング、院内サークル活動、部署を超えた交流イベントなどを企画し、業務外でのコミュニケーションを促進する。

効果的なコミュニケーションの仕組みを作る

スムーズな情報共有とオープンな意思疎通は、安全で質の高いチーム医療の基盤です。

世代に関わらず、誰もが気兼ねなく発言・相談でき、必要な情報が確実に伝わるようなコミュニケーションの仕組みやルールを整備しましょう。

• 情報共有ツールの最適化: 電子カルテの記録・連絡機能、院内SNS、ビジネスチャットツールなどを効果的に活用し、口頭での指示と合わせて記録に残す習慣をつける。

• 会議・カンファレンスの質の向上: 目的とゴールを明確にし、ファシリテーター（進行役、中堅看護師が適任な場合も多い）を立てるなどして、効率的かつ建設的な話し合いができるように工夫する。
• 　全員が発言しやすい雰囲気を作ることも重要。

• 「心理的安全性」の高い環境づくり: 上司や先輩に対して、意見や懸念、質問などを安心して表明できる、失敗を恐れずに報告・相談できると感じられる職場環境を目指す。

共通の目標設定と協働体制の強化

「患者さん中心の最善のケアを提供する」という看護の根本目標に向かって、世代を超えて一丸となって取り組む意識を高めることが重要です。

• チーム目標の明確化と共有: 部署やチームとしての具体的な目標（例：〇〇のリスク低減、患者満足度向上など）を設定し、全員で共有し、達成に向けて協力する。進捗状況も定期的にフィードバックする。

• 役割分担と権限移譲: それぞれの経験、スキル、意欲を考慮し、世代に関わらず適切な役割分担と責任（権限）の委譲を行う。若手にも挑戦の機会を与える。

• チームビルディング活動: 目標達成に向けたプロジェクト活動や、チームの親睦を深めるレクリエーションなどを通じて、連帯感や協力体制を強化する。

多様な働き方を支える制度と教育体制の充実

新人が安心して成長でき、中堅がキャリアを積みながら活躍でき、ベテランが経験を活かして貢献できる、それぞれのライフステージやキャリアプランに応じた働き方を支援する制度や教育体制を整えることも重要です。

• メンター制度・プリセプターシップの強化: 新人一人ひとりに相談役となる先輩（メンターやプリセプター）をつけるだけでなく、指導する側（中堅・ベテラン）へのサポート体制（相談窓口、指導者研修など）も充実させる。チーム全体で新人を育てるという意識を醸成する。

• キャリアラダー・目標管理制度の活用: 各世代の看護師が、自身のキャリア目標を設定し、それに応じた研修や経験を積めるよう支援する。
• 　定期的な上司との面談で、キャリアや働き方について相談できる機会を設ける。

• 継続教育（Continuing Nursing Education: CNE）の機会提供: 世代に関わらず、最新の医療・看護知識、技術、マネジメントスキル、コミュニケーションスキルなどを学び続けられる機会を、研修やe-ラーニングなどで提供する。

• 多様な勤務形態の導入: 育児や介護との両立支援のための時短勤務、フレックスタイム、夜勤専従など、個々の状況に合わせた柔軟な働き方を可能にする制度を検討・導入する。

7.まとめ：ギャップは壁ではなく、多様な視点を生むチャンス

看護師の職場でしばしば課題となる世代間ギャップ。

その根底には、医療を取り巻く環境の変化、受けてきた教育の違い、そして社会全体の価値観の多様化など、様々な要因が複雑に絡み合っています。

この記事で見てきたように、ベテラン、中堅、新人、それぞれの世代で、仕事への取り組み方、知識や技術の習得スタイル、コミュニケーションの取り方、ワークライフバランスの考え方などに違いが見られるのは、ある意味、自然なことなのかもしれません。

しかし、大切なのは、その「違い」をネガティブに捉え、互いを分断する「壁」にしてしまうのではなく、それぞれの背景を理解し、尊重し合うことから、歩み寄りを始めることです。

• ベテランは、豊富な経験という財産を、柔軟な姿勢で次世代に伝え、新しい風を受け入れる度量を。
• 中堅は、双方の架け橋となり、チームの調和を保ち、自身の成長も追求するバランス感覚を。
• 新人は、謙虚に学び、積極的に吸収しながら、新鮮な視点と意見を発信する勇気を。
• そして組織全体は、オープンなコミュニケーションを促進し、多様性を力に変え、誰もが安心して能力を発揮できる環境を。

世代間のギャップは、見方を変えれば、多様な知識、経験、視点を結集させ、より深く、より質の高い看護を創造するための貴重な「資源」となり得ます。それぞれの強みを認め合い、弱みを補い合うことで、個々の看護師としての成長はもちろん、チームとしての総合力、そして患者さんへのケアの質も、きっと向上していくはずです。

もしあなたが今、職場の世代間ギャップに悩み、「もう転職しかないかも…」と感じているなら、この記事で紹介したヒントを参考に、まずは今の環境で、自分にできることから試してみてはいかがでしょうか。

ほんの少しの意識や行動の変化が、状況を好転させるきっかけになるかもしれません。

そして、もし新しい活躍の場を求めて転職を考える際には、給与や待遇だけでなく、「世代に関わらず、お互いを尊重し合う文化があるか」「コミュニケーションは円滑か」「教育体制やキャリア支援は整っているか」「多様な働き方が認められているか」といった、職場の風土や環境にも目を向けてみてください。

この記事が、様々な世代の看護師さんが互いを理解し、協力し合い、より充実した看護師ライフを送るための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。